はじめに:新たなビジネスチャンスの幕開け
新型コロナウイルスのパンデミックを経て、イベントのあり方は大きく変容しました。特に展示会においては、リアル会場とオンライン配信を組み合わせた「ハイブリッド形式」が主流となりつつあります。このハイブリッド展示会は、単に来場機会を増やすだけでなく、会期終了後もオンラインで継続的に収益を生み出す“長寿命”モデルへと進化を遂げています。主催者がオンデマンド版の公開期間を戦略的に延長することで、会期後もブースへのバーチャル訪問通知や具体的な問い合わせが持続し、特別な追加プロモーションなしに、告知メールだけで平均して二桁以上の追加リード(見込み顧客)を獲得できるという報告もあります。この「延長収益」こそ、これからのイベント主催者が見逃すべきではない大きなビジネスチャンスなのです。
本記事では、この延長収益を最大化するための具体的な手法として、3Dウォークスルー技術を核とした「ツアー再販モデル」を提案します。

なぜ今、3Dウォークスルーなのか? ハイブリッド展示会の価値を高める鍵
3Dウォークスルーは、現実空間を忠実にデジタルで再現し、ユーザーがまるでその場にいるかのような没入感の高い体験を提供する技術です。PC、スマートフォン、タブレット、さらにはVRゴーグルといった多様なデバイスに対応しており、時間や場所の制約を超えて、より多くの人々に展示会の魅力を届けることを可能にします。
ハイブリッド展示会において3Dウォークスルーを活用するメリットは計り知れません。
圧倒的な再現性と情報量
高精細な4K画質や、空間全体を俯瞰できるドールハウスビューにより、製品のディテールやブースの雰囲気をリアルに伝えます。情報タグや動画の埋め込み機能を使えば、各展示物に対して補足情報や関連コンテンツを効果的に表示でき、来場者の理解度を深めます。
エンゲージメントの向上
参加者は自身の興味関心に合わせて自由に空間内を移動し、気になるポイントを心ゆくまで探索できます。この能動的な体験は、従来の受動的なコンテンツ視聴と比較して、圧倒的に高いエンゲージメントを生み出し、製品やブランドへの興味関心を効果的に醸成します。
データに基づいた改善
有料のオプションにはなりますが、3Dウォークスルー内の行動データ(どの展示が多く見られたか、どの情報タグがクリックされたか等)を分析することで、来場者の関心事を正確に把握し、将来の展示会企画やマーケティング戦略の改善に繋げることができます。

延長収益を生む「ツアー再販モデル」:3つのマネタイズ戦略
撮影・編集した3Dウォークスルーコンテンツを最大限に活用し、継続的な収益源へと転換させるためには、以下の三段階のマネタイズ戦略が有効です。
1. アーカイブ公開:価値ある情報を公開して恒久的に提供
展示会終了直後から3Dツアーを価値のあるコンテンツとして公開し、常時アクセス可能な状態にすることで、新たなリード獲得の機会を継続的に創出します。これは、放送業界などで既に「保管と同時に再利用による収益を生む戦略」として定着しつつある考え方です。
- メリット:
- 機会損失の防止: リアルタイムで参加できなかった層や、会期後に興味を持った潜在顧客を取りこぼしません。
- 継続的なリードジェネレーション: アーカイブへのアクセスログや問い合わせを通じて、継続的に見込み顧客情報を獲得できます。
- ブランド想起の維持: 定期的な情報発信と組み合わせることで、ブランドの認知度と記憶の定着化を図ります。
- 3Dウォークスルーの活用ポイント:
- 高品質なバーチャル体験の提供: Matterportのようなプラットフォームで作成された高品質な3Dツアーは、アーカイブコンテンツとしての価値を高めます。いつでも、どこからでも、まるで実際の会場を訪れたかのような体験を提供することで、ユーザー満足度を向上させます。
- コンテンツの再編集・追加: 会期中の人気セミナーの録画映像を3Dツアー内に埋め込んだり、新たな製品情報を追加したりするなど、アーカイブコンテンツを常に最新の状態に保ち、価値を維持します。
2. スポンサー連携:新たな広告価値の創出と収益機会の拡大
3Dウォークスルー空間内に、戦略的に広告スロットを設けることで、新たな収益源を確保します。具体的には、空間内のバナー広告や、展示物詳細をポップアップ表示する情報タグ内への広告掲載などが考えられます。
- メリット:
- 新たな収益源の確立: 従来の展示会スポンサーシップに加えて、デジタル空間ならではの広告枠を提供することで、収益機会を増やします。
- スポンサーへの付加価値提供: スポンサー企業は、ターゲット顧客が能動的に情報を探索する3D空間内で、効果的にブランドや製品を訴求できます。アクセスデータに基づいた効果測定も可能です。
- 高いROIの実現: 英国のマーケティングイベント「MAD//Fest London」では、オンライン部門のリニューアル後、スポンサーの更新率が82%に達したという事例もあり、スポンサー満足度の高さが伺えます。
- 3Dウォークスルーの活用ポイント:
- 没入感を損なわない広告掲載: 3Dウォークスルーの最大の魅力である没入感を損なわないよう、広告のサイズや配置、表示頻度などを慎重に設計します。例えば、特定の製品カテゴリーに関心のあるユーザーが情報タグをクリックした際に、関連性の高いスポンサー広告を表示するといった工夫が考えられます。
- インタラクティブな広告体験: 単なるバナー表示だけでなく、クリックするとスポンサーの製品ページへ遷移したり、紹介動画が再生されたりするような、インタラクティブな広告フォーマットを導入します。
3. 再販パッケージ:限定コンテンツとしての価値提供
会期中に来場できなかった特定の業界団体や教育機関、あるいは遠隔地の企業などに向けて、講演の録画データと3Dウォークスルーのアクセス権をセットにした「デジタルアーカイブパッケージ」として提供します。展示会の会期延長やオンデマンドアクセスを標準機能として組み込むことで、ライブイベント終了後も継続的に参加登録やコンテンツ購入が伸び続ける可能性があります。
- メリット:
- 新たな顧客層の開拓: 時間的・地理的制約でリアルタイム参加が難しかった層にリーチできます。
- コンテンツ価値の最大化: 一度制作したコンテンツを再活用することで、投資対効果を高めます。
- 教育・研修資材としての活用: 業界の最新動向や専門知識を提供する展示会の場合、教育機関や企業研修部門にとって価値の高いコンテンツとなり得ます。
- 3Dウォークスルーの活用ポイント:
- プレミアムアクセスの提供: 有料パッケージ購入者限定で、通常公開していない詳細な製品情報や、専門家による解説付きのガイドツアー(3Dウォークスルー内で特定ルートを辿りながら音声解説を行う機能)などを提供することで、付加価値を高めます。
- インタラクティブな学習体験: 3Dウォークスルー内の情報タグに、講演資料のダウンロードリンクや関連研究データへのリンクを埋め込むなど、参加者が能動的に学べる環境を構築します。

よくある質問(FAQ)
Q1:3Dツアーをオンラインで公開することで、機密情報や未発表製品の情報が漏洩するリスクはありませんか?
A1:はい、その懸念はもっともです。対策として、撮影前に機密情報が含まれるエリアや未発表製品の展示箇所を物理的にマスキング(目隠し)する、あるいは編集でぼかすといった処置を徹底します。特定のエリアへのアクセスを制限したり、パスワードを設定したりすることで、閲覧権限を細かくコントロールできます。NDA(秘密保持契約)を締結した特定の関係者のみに限定公開することも可能です。
Q2:期待したほどスポンサーが集まらなかった場合でも、このモデルは効果がありますか?
A2:はい、効果は期待できます。スポンサー収入が主な目的の一つであることは事実ですが、ツアー再販モデルはリード獲得やブランディング、コンテンツの有効活用といった多面的なメリットをもたらします。スポンサーが少ない場合は、むしろスポンサー枠を少数に限定し、各スポンサーに「独占的な露出機会」を提供することで、広告のクリック率(CTR)やエンゲージメントを高められる可能性があります。まずは小規模でも開始し、実績を積み重ねていくことが重要です。

まとめ:ハイブリッド展示会の成功は、会期後から始まる第二章にかかっている
リアルな会場での熱気が冷めやらぬうちに、オンラインでの新たな活動を開始する――これこそが、現代のハイブリッド展示会戦略の核心です。3Dウォークスルー技術を駆使した「ツアー再販モデル」は、単にイベントをオンラインで延長するだけでなく、そこから新たな収益機会を創出し、スポンサーとの関係を強化し、そして何よりも、時間や場所の制約を超えてより多くの人々に価値ある体験を届け続けることを可能にします。
ライブ配信の終了は、終わりではなく、むしろ持続的なエンゲージメントと収益化への新たなスタートラインです。このモデルを導入することで、主催者はイベントの投資対効果を最大化し、参加者とスポンサー双方の満足度を高めるという、好循環を生み出すことができるでしょう。